耳鼻咽喉科校医 菊池 和彦
はじめに
 皆さん、かぜやインフルエンザによって起こる発熱に対して、すぐに熱を下げようとして安易に総合感冒剤や解熱剤を使っていないでしょうか。テレビコマーシャルで「かぜには○○薬」と宣伝している総合感冒剤にも解熱剤が含まれています。現代医学ではかぜに効く薬はありません。数時間症状を緩和するだけです。細菌感染症には抗生物質が有効ですが、かぜなどのウィルスに対して医師が処方する薬にはごく一部〈抗インフルエンザウィルス薬〉を除いて効く薬はありません。

 発熱はウィルスや細菌の活動性を弱める生体の防御反応と考えられています。病原体が感染して発熱している状態の時、体は総力をあげて撃退するために病原体と戦っています。これに対して、解熱剤は生体防御反応の邪魔をして、ウィルスや細菌と戦う力を弱めて治癒を遅らせるといっても過言ではありません。また、その副作用で死亡することもあるといいます。それだけに解熱剤はむやみに服用するのではなく、状態を考えて必要最小限にすることが大切です。

発熱のメカニズムと効用
 体温は脳の視床下部にある体温調節中枢というところでコントロールされています。 健康な人では36℃程度〜37℃程度にセットされて、生理的体温が保たれています。
 健康な人でも疲れやストレスなどで体の抵抗力が低下し、細菌やウィルスなど〈外因性発熱物質〉が体の中に侵入し感染を起こします。すると感染している場所に微生物を食べる白血球(好中球)やマクロファージ(貪食細胞)などが出てきて攻撃します。それでもだめならインターロイキン(IL)やインターフェロン(IFN)などといった内因性発熱物質である伝達物質(サイトカイン)が視床下部に応援を要請して、プロスタグランディン(PG)類の合成を促します。プロスタグランディン(主にPGE2)の作用で視床下部の体温中枢の調節を平熱からセットポイントを上げて体温が上昇します。その際、いわゆる鳥肌になり皮膚の血管を収縮させて熱が逃げないようにしてウィルスと戦闘態勢に入ります。体温が上昇すると、ウィルスに感染した細胞を殺すリンパ球T細胞が出現したり、リンパ球B細胞に連絡してウィルスに対する抗体が作られてまもなく戦闘に打ち勝つと、しだいに熱が下がってきます。 
 また、内因性発熱物質にもT細胞を増やしたり、B細胞の抗体産生を誘導したり、ナチュラルキラー細胞の活動を強めたり、白血球の活動を強めたりするなど様々な仕組みを介して免疫機能を強める作用があります。また、感染が拡がらないように局所に封じ込めたりする働きもあります。

 高熱なると不安になります。いったい熱はどのぐらいまで上がるのでしょうか。熱が41℃以上になると脳やいろいろな臓器に負担がかかり障害を起こす危険性がありますがそれほど心配はありません。体温が41℃〜42℃程度に上昇すると、脳の中の下垂体刺激ホルモンや抗利尿ホルモンなどの内因性発熱抑制物質と呼ばれるものが分泌されて、これ以上熱があがらないようにうまくコントロールしています。

 このように生体にとって敵である病原体が侵入すると、体温を上げて免疫の機能を高めてこれを攻撃し排除するために全力を上げて戦っています。殆どの病原体は平熱よりやや低めの時によく増殖しますが高熱には概して弱いのです。

熱で髄膜炎や脳炎を起こす?
 熱が原因で髄膜炎や脳炎を起こすことは絶対にありません。髄膜炎や脳炎を引き起こす病原体が高熱の原因になっているのであって、解熱剤で熱を下げても病原体の勢いを止めることができません。従って髄膜炎や脳炎を軽快させることにつながりません。
 興味深い臨床・動物実験報告があります。解熱剤投与で水痘症(水ぼうそう)の治癒が遅れるとか、麻疹に近いウィルスを注射したウサギの実験では何も処置をしない方は死亡しなかったが、強力な解熱鎮痛剤を投与した方では多数が死亡し、しかも腸間膜リンパ節でウィルスがむしろ増殖していたという驚くようなデータが報告されています。
 これは強力な解熱剤が発熱を抑えて解熱したことによって、ウィルス(病原体)がかえって活発になったと考えることができます。
 病原体を生体から撃退するのに解熱剤はむしろ邪魔をしているということになります。

解熱・鎮痛剤による副作用
 解熱剤にはすべて鎮痛作用があり、解熱・鎮痛剤と呼ばれています。解熱剤は前述したプロスタグランディン類(PG)の合成を抑えて解熱作用を発揮します。PGには胃酸産生抑制、腎臓血流調整、気管支拡張など大切な生理作用があります。従って解熱・鎮痛剤の種類によって多少の違いがありますが、体にとって重要な生理的作用を阻害して腎障害や胃潰瘍などになる危険性があります。その他低体温、急激な体温低下による血圧低下・ショックや気管支喘息患者は症状悪化の可能性があります。解熱剤の種類や使い方によっては死に至るほどの重篤な経過を辿ることもあります。

解熱・鎮痛剤の服用は毎食後ではなく頓服(必要時だけ服用)で
 感染症による解熱・鎮痛剤の服用は1日2回頓服(限度は最大3回まで)が原則です。
 熱があるなしに拘わらず時間毎に食後3回服用するのは、発熱は正常な生体の防御反応であるという面から問題があります。
何度以上に服用という基準はありませんが39℃以下ではできるだけ服用しない方がよいと思います。服用する場合は、熱や痛みで苦痛がひどく、睡眠障害、食事や水分摂取が十分でなく体力低下が激しいときなどに限定すべきでしょう。その場合、熱はわずかな解熱にして決して平熱に戻さないことが大切です。その理由は低体温、ショックなどの危険性やウィルスが繁殖しやすいのは平熱の時だからです。

解熱剤はアセトアミノフェンのみの頓服で十分
解熱剤にはいろんな種類がありますが、現在では副作用が少なくおだやかなアセトアミノフェン(註1)の頓服で十分であるとされています。その他では強いて上げるとイヴプロフェン(註2)ぐらいです。それ以外の解熱鎮痛剤は副作用が強く処方されても服用しないことです。それらはもともと解熱剤としてではなくリウマチ・関節痛など主に整形外科的な疾患に対して抗炎症鎮痛剤として開発されたものだからです。
 サリチル酸系(註3)はライ症候群との関連性から15歳未満へのウィルス性疾患には原則禁忌になっています。
 厚生労働省は2001年にインフルエンザ脳症との関係からジクロフェナク(註4)の15歳未満のウィルス性疾患メフェナム酸(註5)の小児のインフルエンザ に対して原則禁忌とする見解を示しました。しかし、14歳は禁忌にして15歳以上は投与可能とするのは危険だと思います。ましてや抵抗力の弱い高齢者はなおさらです。大人も副作用の少ないアセトアミノフェンにすべきだと思います。
 もう1つ注意が必要な薬は医療機関が処方するPL顆粒LLシロップという総合感冒剤です。それらにはアセトアミノフェンとサリチル酸系のサリチルアミドの解熱鎮痛剤が含まれています。サリチルアミドはウィルス性疾患に小児原則禁忌です。しかも頓服が原則であるにも拘わらず何故か1日3〜4回の食後薬として認められています。
 万一、医療機関からかぜインフルエンザでボルタレン、ポンタールやP−L顆粒などが処方されても服用しないでください。大人も同じです。
 実際、2002年3月に厚生労働省がインフルエンザ脳症の死亡例にこれらの製剤が含まれていたという事例を報告し、医療機関や薬剤師に注意を促しております。

市販感冒剤は大丈夫?
CMでさかんに「かぜによく効く」として総合感冒剤を宣伝しています。これは対症療法といって、不快な症状を緩和するだけでかぜの原因を取り除くものではありません。発熱、鼻水、咳などの症状は原因を取り除くために必要があって体が出しているのですから最小限の服用と十分な栄養と休養でよいと思いますが...
 みなさんは市販総合感冒剤にどのような成分が含まれているか確認して服用していますか。多くの感冒剤には10種類以上の成分が含まれています。これと同じ成分を医師が処方すれば10剤以上ということになります。皆さんこれで服用するでしょうか。
 解熱鎮痛成分として殆どに副作用の少ないアセトアミノフェンが食後薬1日3回として使用されています。しかし、頓服として服用すべきだと思います。
なかにはウィルス疾患に不適切なサリチル酸系のエテンザミド(註6)を含む市販薬もありますので注意が必要です。
 咳止めとして少量ですが「○○コデイン」として中枢性麻薬性鎮咳剤が使用されています。この副作用として呼吸抑制や吐き気、便秘などがみられます。また鼻水をおさえたり、咳止めや気管支拡張としての交感神経刺激薬であるフェニルブロパノールアミン(PPA)を含むものもあります。PPAは米国では連用による脳出血の危険性のため販売中止になりましたが、日本では含有量が少ないという理由で認可されていることのようです。
 このように市販薬感冒剤でも注意して服用しないと副作用で苦しむことがあります。服用するなら症状別にピンポイントで効く薬にするのがいいと思います。できれば信頼できる薬剤師に相談をして自分の症状にあった薬を服用することが大切だと思います。

おわりに
 発熱はかぜやインフルエンザを撃退するために、必要不可欠です。
 解熱剤は何度以上服用という基準はありません。
どうしても服用せざるを得ない時は39度以上でアセトアミノフェンを頓服としてできるだけ1日2回までとして、高熱によって痙攣が起こる可能性がある幼児、著しい体力の消耗、循環器系に問題が生じる場合などに限定して服用すべきだと思います。
 発熱をコントロールする対処法として、十分な水分・栄養(ただし温かいもの:鍋物・スープなど)、発熱の初期は保温性高い衣類の着用、ピーク時は吸水性の高い衣類の着用、ショウガ湯、唐辛子を含む食品、バナナ、ビタミンC摂取、微熱程度なら通常より低めの温度の入浴などがよいとされています。
  以前、テレビ番組の「あるある大辞典」で「発熱」を取り上げていました。その中で「39℃以下は発熱の妨げになる解熱剤はできるだけ服用しないように」は印象的です。



註1)アセトアミノフェン  商品名: (内服)カロナール、ピリナジン、ナパ、ピレチノール、アニルーメ他、
    (坐薬)アンヒバ、アルピニー、カロナール、アニルーメS他
  解熱剤として最適です
註2)イヴプロフェン 商品名: ブルフェン他
  市販薬: イヴなど
註3)サリチル酸:アスピリン・アスピリン・アスコルビン酸、アスピリン・ダイアルミネート、サリチル酸ナトリウム サザピリン、サリチルアミド、エテンザミド
  商品名: アスピリン、バファリン、サルニソン注射液、サリナ、P-L顆粒、LLシロップE・A・C錠他
註4)ジクロフェナク 商品名: ボルタレン、ナポール、ソファリン、ウフェナック他
註5)メフェナム酸 商品名: ポンタール他
註6)エテンザミド 15歳未満の水痘症(水ぼうそう)、インフルエンザには原則禁止のサリチル酸系の薬品です。多くの市販薬に使用されていますので確認してください 
註3)〜註6)はかぜには服用しないでください

【参考にした文献】 
◯ 村上 悳  :

発熱と生体防御「新しい発熱のみかた」  
日本医事新報社 1988.

◯ 入来 正躬: 発熱−発熱物質により引き起こされる生体防御反応のパターン 総合臨床、
Vol.47, No.9 2439-2441, 1998.
◯ 宮坂 信之: 免疫機構としての体温上昇 総合臨床、
Vol.47 No9 2442-2445, 1998
◯ 武田 裕子: 発熱・不明熱の基礎知識「発熱のメカニズム」、治療、
Vol.81, No.2 6-10, 1998
◯ 永井・那須: 発熱・不明熱の基礎知識「発熱への対処をどうするか」治療、
Vol.81.No.2 39-47 1998
◯ 近藤 啓文: 非ステロイド性抗炎症薬・・作用機序、種類、特徴 
日医雑誌 第122巻第4号 平成11年8月15日号 EI-22
◯ 山本 一彦: 非ステロイド性抗炎症薬・・臨床薬理と使い分け 
日医雑誌 第122巻第6号 平成11年9月15日号 EI-25 
◯ 河野 茂他: 感染症のとらえ方 眼で見るベッドサイドの病態生理 
文光堂 2001.
◯ 浜  六郎: 薬害はなぜなくならないか「薬の安全のために」
日本評論社 2001.
◯ 浜  六郎: シリーズ いま、医薬品を見直そう『「かぜ」「熱」への解熱剤を今一度点検しよう』
◯ 浜 六郎他: 第一回医薬ビジランスセミナー報告集 
日本評論社 1999
◯ 「治療薬マニュアル2002」 医学書院
◯ 医学大辞典 第18版 1998年 南山堂